Last Update 2001/04/15
このページでは、家族の一員であるメスネコの「やすめ」ちゃんを連載して行きます。
前編では、やすめちゃんがのらネコから家族の一員になるまでの生い立ちを連載して行きます。
それでは、ごゆっくりとお楽しみください!
第1章 | 先生との出逢い | |
第2章 | お正月 | |
第3章 | 家族 |
私はネコの「やすめ」、漢字で「休女」と名前がついたらしいです。
私の過去は、アカシア商店街の電気屋さんやうどん屋さんで約1年ほど、お邪魔していたようです。でも、食べるものはくれるのですが、夜はいつも一人ぼっちでした。
秋も終わりに近づいたある日、今年のお正月は暖かいお部屋でおせち料理を食べながら過ごしたいなと、いろいろ考えながら散歩をしていたら、とても賑やかな家を見つけました。
家に近づき、ガラス越しに問い掛けてみました。
コンコン、コンコン、「私もストーブにあたらして!」
すると、教室の中の人が気がついてくれました。
「あっ可愛い!先生、入れてあげても良いですか?」
かわいいお姉さんのおかげで、家の中へ入れてもらいました。
お姉さんたちは、私の体を丁寧に拭いてくれ、自分たちが食べていたおやつのチーズをくれました。二日間何も食べていなかったので、少し食べなれない味だったけど全部食べました。
(やすめの独り言:今でもその味が忘れられなく、時々チーズをねだります)
体も温まり、毛がフワフワになり、白いオーバーコートを着たような感じになりました。久しぶりに鏡の前でゴージャスな気分になりました。
それから数時間が過ぎ、教室の皆が掃除をする人や家の戸締りをする人たちで慌しくなりました。
すると、生徒さんの一人が、
「先生、このネコちゃんどうしましょう?」
何やら私のことで相談が始まったようです。
(やすめの独り言:このときはとてもドキドキしていました。今でも人のヒソヒソ話は嫌いです)
そして、先生が近づいてきて私にこう言いました。
「また、木曜日にね。」
結局、教室が終わると同時に外に出されてしまいました。
どうやらこの教室は、火曜日と木曜日だけ、ここで教室を開いているようです。
この日は、このままさよならしました。
※この当時は、子供の学校の関係上、武蔵教室の方に住んでいました。火曜日と木曜日だけ、内灘教室の方に通っていました。今思い出すと、とてもかわいそうな事をしていました。胸が痛みます…
賑やかだった教室も暗く寂しい教室になりました。
(やすめの独り言:今でも一人ぼっちになるのが嫌です)
私は今晩この家の車庫で寝ることにしました。車庫の中には古着が一杯あったので、そこで寝ることにしました。
それから2日が経ち、私は教室の玄関の前で先生たちを待ちました。
すると、お向かいのおばさんが、
「どうしたの?」
と、話し掛けてくれました。私は、何度かドアノブの方を見てアゴで合図したのですが、気がついてくれませんでした。
「先生はもう少しで来るから、まってまっしね。」
と、教えてくれました。
しばらくすると、向こうの方からターコイズ色のコートを着た先生が来ました!
「ごめんね。寒かった?さあ、食べまっし。」
ドアも開けずにカバンからフアフアなかつお節を出して、ごちそうしてくれました。
「あぁ、おなか一杯、ムニャムニャ。」
とても美味しかったです。
(やすめの独り言:このときからかつお節が大好物になりました)
先生と出会ってから1ヵ月半が経ちました。先生たちにとっては楽しいお正月。でも、私にとっては辛い季節が来ました。
先生は週に2日、私に食べるものを持って来てくれますが、それ以外の日は近所のうどん屋さんのボイラーの脇で一人ぼっちで寝泊りしています。
いつものように先生の家に行ってみると、いつにもなく賑やかになっています。どうしたのかと近づいてみると、子供たちが先生の家の中ではしゃいでいたのです。恐るゝ近づくと男の子が私に気がつき近づいてきました。
「うわ!かわいい!白いネコや!」
いつの間にか子供たち3人に囲まれてしまい、どうする事もできなくなりました。
すると、先生が来て私を優しく抱き上げてくれました。
「また、来てくれたのね。」
どうやらこの子供たちは先生のお子さんだったようです。
(やすめの独り言:どう言う訳か今でも子供が苦手です…嫌いな訳ではないのですが、やっぱり苦手です)
それから家の中に入れてもらった私は、茶の間で今までに見たことがないような料理を目の当たりにしました。
すると、太い大きな声で男の人が叫びました。
「わしの刺身、全部やれ!」
私は男の人が食べていた刺身をもらいました。ちょっと怖かったので、隣の部屋の床の間の鏡餅の後ろで食べました。
「ムニャ、ムニャ。ニャ!(美味しい!)」
刺身は近所のお魚屋さんからもらって食べたことはありますが、ブリの刺身は初めてでした。
またもらおうと男の人のところへ行くと、男の人は酔っ払って両手両足を大の字にしてひっくり返っていました。
どうやら先生の旦那さんだったようです。ちょっぴり先生には勿体無い気がしました…
(やすめの独り言:おとうさんは、お酒を飲むと大きな声で喋るので、今でも近づきにくいです)
おなかも一杯になり、ストーブの前でくつろいでいると、突然、先生に抱かれて狭い部屋へ連れて行かれました。
そこは何やらモヤモヤしていて、とても暖かい部屋でした。でも、なんだか大きな水溜りがあり、そこから湯気が上がっていました。
だんだんと不安になり、私は騒ぎました。
「ニャーニャー」
今まで出したことない声で叫びました!
「ニャーギャー」
「痛い!」
私は先生の手を引っかいてしまいました…
それでも先生は、私を叱らず湯気が出ている水溜りに入れ、私を洗い始めました。
これがお風呂だったのです。生まれて初めてお風呂に入りました。
(やすめの独り言:お風呂で綺麗になるのは好きだけど、やっぱり苦手です)
お風呂から上がり、ストーブの前でくつろいでいると、今度はみんなが私の方を見ながら何やら相談しています。
「ネコに名前つけようよ。」
「でも、どんな名前にする…」
どうやら私の名前を考えているようです。しばらくして先生が、
「やすめちゃんにしましょう!」
と、私の名前が決まったようです。「やすめ」と言う名前になりました。
この名前の由来は、私の不自由な右足が、座るときに曲げれず、体育の「休め」の格好に似ているところから付けられたようです。
最初はちょっと嫌だったけど、みんなが「やっちゃん」と呼んでくれるので、今では気に入ってます。
(やすめの独り言:でも、私は電気屋さんやうどん屋さんのお姉さんに「雪ちゃん」と呼ばれていました)
※やすめちゃんの右足が曲がらないのは、仔猫のときの事故が原因のようです。(今でも確かなことは分かりません…)
それから5日間、みんなと楽しいお正月を過ごしました。
(やすめの独り言:このときに家族の大切を知りました)
そして、やっぱり別れのときが来ました…
先生は私を抱いて車庫へ連れて行きました。
「ニャ〜ニャ〜」
私を古着の上に乗せ、こう言いました。
「ごめんね…武蔵のお家に連れて行くことはできないの…」
「でも、春から内灘で暮らすことになるからそれまで我慢してね。」
「ニャ〜?」
このときはまだ分かりませんでしたが、春から私の人生が大きく変わろうとしていました。
私たちネコにとっては辛く寒い冬も終わりに近づき、暖かい春が直ぐそこまでやってきました。
先生も毎日来るようになり、私も一安心。これからは今までと違う生活が始まろうとしています。
このときは、どうして毎日来るようになったのかは、まだ分かりませんでした。
しばらくして、先生たちが夜も泊まるようになりました。どうやらここで暮らすような感じです。
(やすめの独り言:もしかして、チャンスかな!)
※この年の春から内灘に引っ越すことになりました。私と夫と次男が内灘で暮らし、長男と長女は仕事、学校の都合上、武蔵に残ることになりました。
今日から4月、月曜日は新しい生徒さんが入会するので、朝からてんてこ舞いです。AM9:30〜PM0:30は内灘教室で、夜はPM6:00〜PM9:00の武蔵教室へ電車で出かけます。毎日会えるのは嬉しいんだけど、なんだか先生は以前より忙しくなったみたいで、ちょっぴり寂しいです。
取りあえず、誰かが帰ってくるのを車庫で待つことにしました。
ガタ、ガチャン!
誰かが帰ってきたようです。今日こそ、お願いして皆と一緒に楽しく暮らしたいわ。
アッ、2階の電気が明るくなった。次男の部屋かな。そうだ、桜の木からそっと覗いてみよう!
少し怖かったけど、お願いするために桜の木に登りました。そして、窓に近づくために細く折れそうな枝をつたい、2階の窓に近づきました。やっぱり、次男だ。お願いしてみよう!
「ニャー、ニャー!」
気がついてくれないな〜もう一度!
「ニャー!ニャー!ニャー!」
すると、次男が私に気づいてくれました。
「なんやこりゃ!こんなところから登ってきたんか!わかった、わかった。入れてあげるよ。」
次男はハシゴを使って私を桜の木から降ろしてくれました。
(やすめの独り言:私はネコだから自分で降りれたんだけど、次男の気持ちを無駄にしたくなかったので、恐そうなふりをしていました)
どうやら、私の気持ちが次男に伝わったようです。
武蔵教室から帰ってきた先生に、次男がこの事を話してくれました。
でも、なんだか先生は良い顔をしていませんでした。
この当時は知りませんでしたが、私が先生と出逢うずっと以前に、「ピンタ」と言う私と同じ種類のお兄ちゃんネコがいたそうです。このお兄ちゃんは、非常にお行儀が悪く、お風呂嫌いで不潔だったそうです。
それで、先生は迷っているようです…
(やすめの独り言:私は小さい頃から綺麗好きだから大丈夫…かな?)
今夜は、車庫で寝ることにしよう…
「ムニャ、ムニャ…」
今日は火曜日、AM9:30〜PM3:00まで、昼間コース。PM6:00〜PM9:00まで夜間コース。昼も夜も新しい生徒さんが来て先生は今日も忙しそうです。
今夜、もう一度お願いすることにして、昼間は寝ることにしよう。
「ムニャ、ムニャ…」
・・・
あっ!寝すぎちゃった!
家中どこも電気がついてない…
あぁ…今日もだめだった…
ん?庭の方の戸が少し開いている!?
ここから入ろうっと!
家の中に進入した私は、先生を探しました。あっ居た!でも、先生たちは既に寝ていました…
寝ている先生たちを見ていると私も眠たくなってきました。
先生の布団の中に入ろうと思ったけど、いきなりじゃ失礼なので、布団カバーの中で寝ることにしました。
「グー、グー」
そして次の日の朝、布団の周りが騒がしくなって、出ようと思ったとき、体がフワリと宙に浮きました。そして、その瞬間先生が叫びました。
「キャー」
どうやら私が布団カバーの中に入っていることに気がつかず、布団をたたもうとした時に私が動いたのでビックリしたようです。
ビックリした私はその場を逃げ出し、車庫の方へ行きました。
しばらくして、先生がお魚(カワハギ)の身を車庫に持ってきてくれました。
「さっきは、ビックリしたわ。どうやって家に入ったの?」
どうやら、私のために次男が戸を開けてくれたようです。
それから、先生たちは私のことで相談を始めました。
・・・
そして、先生は私を抱き上げ、こう言いました。
今まで家に入れてあげなくて「ごめんね。やっちゃんに負けたわ。」
(やすめの独り言:やっぱりネコにも努力が必要なんだわ)
「ニャ!(やった!)」
こうして私は、先生の家族の一員になりました。
そして、今日から先生が私のお母さんです!
次回は、「ピンタ」のお話と「やっちゃんのお手伝い」です。
お楽しみに!
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